2014年10月8日水曜日

ようこそちょっとコアな音響の世界へ

 さて、お急ぎの方も、そうでもない方も管理人ikataroの仕事でもある舞台音響とその周辺の技術や人間模様に関する話題にお付き合いください。
 意外なことにこうした話題のブログは少ないのよね・・
 まぁ舞台音響と一言で言ってもプロダクションと組んで大型コンサート(アリーナなど)で巨大システムを振り回す仕事もあれば、演歌歌手にくっついて地方の小屋を丹念に回る仕事もあり、かと思えば商店街の売り出しでの民謡ショーや歌謡ショーの仕事もある。
 神社のお祭りでの郷土芸能なんてのもありますね。
 こうした俗に言うPA系、に対して小屋付きの音響さんと呼ばれる人もいます。
 これも公共ホールでの役所の人だったり、委託業者さんだったり、また商業劇場でのプランも含めた音響さんだったりします。
 近年増えているのがMA系の仕事ですね。ビデオとの絡みの仕事です。
 伝統的に音響のイメージはレコーディングスタジオのミキサーというものですが、DTMの普及により大型スタジオは滅多に使われなくなってきて、微妙な位置づけにいるようです。
 また、演劇に録音素材を使って、あるいは生素材を使って効果音をつける仕事を正しくは音響効果家といいますが、演劇系の人が単に音響さんと言ったときはこの人たちを指すようです。

 とまぁ、職業分類を紹介しようと思っているわけではないですが、こうした仕事の話題、特に技術的な話題、気がついたアイデアやアプローチ法など折々に取り上げたいと思います。

 おっと、簡単に自己紹介を・・
 地方の小屋付きで立場は地方公務員です。
 日本舞台音響家協会常任理事、秋田県音響技術者協会副会長、FBSR会運営委員をさせていただいています。
 一級舞台機構調整技能士

ミキサーの悩ましさ

はてさて、音響技術者の花形というか、コンサート会場などででんと中央に座っているのは俗にミキサー、詳しく言うとミキシングオペレータ、あるいはミキシングエンジニアとよばれる人たちですね・・
やっている作業は各楽器の前のマイクロホン(直結の場合も)からの音声信号を「ミックス」(ミキシング)をしているわけですが・・
んで、彼らの前に置いてあるでかいつまみだらけの機材・・これもミキサー(あるいはミキサー卓、ミキシングコンソールなどとも)とよばれます。(まぁ最近つまみの少ないデジタル卓も増えてますけど・・)
まぁ音声信号をミックスするための機材と言うことなんですが・・

確かにミキサーというのは電気回路的にはサミングアンプ(加算回路)の化け物で、各入力回路の信号を加算しているのですけれど、実際に音楽的に、あるいは音場制御的に何に腐心しているのかというと、「如何に混ぜないか!」・・なんですよね・・
定位、中心周波数帯、マイクアレンジなど、如何に音が混ざらないかに細心の注意を払っている・・
なのに「ミキサー」・・

非常に皮肉というか、初心のうち、大変に混乱させられるところでもありますね・・
かといって別の候補はといっても定着したものはなかなか・・いまさら音声調整卓つっても・・定義としてはもっとも正しそうですが・・^^;;

我が音響事始め

まぁあまりに個人的なことは誰も面白くないだろうと思いつつ、考えてみると中学になる頃からオーディオ的な事に興味が多くなってたみたいですね。
我が家で一番最初に入手したテレビ、これは三菱製のステレオでもないのに左右にスピーカーが付いた家具調の白黒テレビ。
忘れもしない昭和39年、小学校の2年生の時だったはず。
当時、午後3時頃から5時ちょっと前までテレビは映らなくて、5時近くにテストパターンが映り、ほとんど5時からまたテレビがスタートした物でした。
まぁ、鉄腕アトムのモノクロ放送が合って、お茶の水博士がマイスターだったのよね・・
で、昭和42年には日立のキドカラーのポンパなるカラーテレビが発売されて我が家でも購入したわけだ・・
これに伴って古いモノクロテレビは用済みとなり、ステレオスピーカーのような構成故、譲り受けて自分の部屋に据え付けたのだ。
これはP-610という三菱の名スピーカーにちょっと似た六半のウーハーユニットにTW23というツイータが付いていて、なかなかの音がしてたのさ。
これに当時の8トラックカーステレオをバッテリーで駆動し、スピーカーだけ流用して聞き始めた・・と言うのがそもそもかなぁ・・
んで、カーステレオ用のスピーカーを壁に直接ぶら下げて鳴らしたりし始めたのが一等最初のオーディオ遊びだと思う。
ちょうどこの年(中坊の2年)の時、放送委員会なる学校の委員会に入って、この時の顧問が恩師の佐藤先生だったのだ。この方は吹奏楽の指導者で、かつオーディオを趣味にされていた。必然的にオーディオ趣味は加速されていったのだ。
で、放送委員会でもメカ好きの私は学校の式典のPA等を担当するようになったのよね。
翌年、PinkFloydの最初の来日があったのよ・・
ようやく買ってもらったモノラルラジカセのFMで聞いたエコーズにすっかりはまってしまい、受験のプレッシャーでへろへろになっていた私はどっぷりね・・
翌年には高専に入学して一気にオーディオ熱はヒートアップして・・って、そもそもオーディオをやりたくて高専に行ったような物だったし・・
寮祭でサラウンド(この頃4ch再生の第1次ブーム)で狂気を掛けたりしたのよね・・

ちょうどこのころバンド活動をするようになって、必然的にPA担当になったのだけれど、当時は機材が入手できなくて、ずいぶん苦労した覚えが・・
野外ライブでティンパニーにバスガイド用マイクを使ったのも今考えると良い思い出・・ヤマハのトーンゾイレスタイルのブルーの奴(知ってる人はみんな知ってる・・けど年寄り化してるかも・・)を3対抗で野外をこなしていた・・っていうのも今考えるとよくやった物だと思いますけどね・・

結局、音楽にはまりすぎて日本工学院専門学校の芸術学部、放送制作芸術科に進んだあたりで、まぁ今の生き方は決まってたんでしょうけど・・

父の病気などでまともな就職をしそこねて、各種の仕事をてんてんとしたあげく、下請け経由でNECの衛星事業部に。
そして田舎にホールが出来たと言うことでの帰省。
いつの間にか各団体で金太郎飴のような位置にいた・・と言う雰囲気です。

そうそう、この三菱製テレビでの再生には笑い話が・・
バッテリーでカーステレオを駆動して鳴らしていたので、感電はあり得ないと思っていたのね・・中坊の電気知識では・・
が、テレビ本体が電源につながっていたこと・・当然シャーシーグランドなど取っておるはずもない・・もう分かる人は分かると思うんだけど・・たぶん70Vくらいはかかってたのね・・
それでも当時はしびれる腕をこらえながら、おかしい?なんで12Vで感電するんだ?・・と悩んでたのだ・・

そのミキサー何チャンですか?

表題の言葉は、客席内でオペレートしているとき、休憩時間などでよく聞かれるんですが・・ご同輩なら結構経験されていると思うんですが・・

プロとして仕事するときに、必要十分であるが、最小限の機材で・・と言うことは、採算上からも作業量からも当然真っ先に考慮する問題ですね。
したがってシステムの規模を決める因子を検討してみます。

※ 一つにはどういった種類の仕事なのか(音楽?芝居?講演会?)

これはミキサーや周辺機器の規模を決定します。マイクを20本使いたいと言われればその規模はクリアしなければなりませんし、講演会だから3本で十分と言われればそれに対応して。
ミュージカルみたいに何十本とか言われると、それも可能な限りクリアしないことには仕事にならないわけですよね・・

逆に言うと、講演会に何十チャンものミキサーを持って行っても、でかいし重いし無駄なだけ・・
もちろん足りなくしたらアウトですが・・

※ もう一つにはどこでやるのか・・

これがシステム全体の規模を決めるときに大きなファクターです。
例え一本しかマイクを使わなくとも、横浜アリーナでやるんならそれだけのスピーカーシステムが必要だし、例え何十本マイクを使おうと教室のようなところなら大概小型スピーカーですよね・・

費用的にはこちらのファクターが非常に大きいわけで・・アリーナだとステージ組み、スピーカーをフライング(正しくはリギング)するための膨大な設置費用が必要です。
必要とされるスピーカーの数も膨大だし、それを駆動するアンプ類、そのアンプが消費する膨大な電力源のチャーター。

ですから、プロはそのミキサー何チャンですか?とは決して聞かない・・というのはそう言う部分をよく分かっているからなんですね・・

よく、主催者さんで、タレントのギャラが5万なのになんで音響に10万かかるんだ!などと仰る方がおられます。
あ~・・例えタレントが0円でも(つまり素人だけでも)会場が体育館ならそれに適した規模、野外ならやはりそれに適した規模の機材が必要なのですよ・・と、答えていますけどね・・
逆にタレントさんに一千万払っても、お座敷でやるならPAは一切必要ないし・・だから音響はそのイベントの性質と会場の規模で費用が決まるんですよ・・(もちろん質にも因りますが・・)

基本中の基本:レベル合わせ

さて、細かいテクニックはともかく、ミキサーのダイナミックレンジが有限である限り、レベル合わせが基本中の基本であることは間違いないですね。
アマチュアや、初心者の卓は見れば一発で分かる・・などと言われる所以でもあります。

良い卓ほどきっちりレベルがあったときには実によい音を出してくれるものです。

楽器にも依るのですが、まずはボイスでかなり大きい声の時にピークが付くか付かないか・・ボイスというのは存外レベルが高いので、これで合わせておくとまず各マイクの基準が取れます。特に出演者や楽器が判明していないアバウトなイベントでは基本です。
ゲイン調整の最初の段階ではフェーダーは上げず、ソロ検聴しながら合わせることをお勧めします。他の機器に影響も出しませんし。
今はかなり安い卓でもソロ検聴ができますよね。

この段階で通常のボイスでは気持ち振り切ってないかな・・ぐらいが使いやすいのではないでしょうかね・・本番では皆かなりレベルが上昇しますから。

各モジュールでの適正レベルと、サミングアンプの適正レベルは悩ましい問題で、各モジュールがフルテンで動いていると、各入力をミックスしたときにサミングアンプでサチる・・と言う事態を招きます。特に単純に全部をLRマスターに送ったときは顕著ですね。

ここの案配は経験を重ねていただく必要があるのですが、こういう問題が起こるよ・・という点を意識しながらオペレートする癖が大事かなと。

さて、サミングアンプまでうまく合わせ込めた・・として、最後のマスターフェーダーを基準点に持って行ってオペレートするべきか・・これは終段のアンプの問題も含めよく考えなければいけません。

終段のアンプのゲインつまみはもちろん振り切りがもっとも音がよいです。でも不用意な操作でスピーカーやアンプを飛ばす原因にもなりますね。
ここでフルテンにして卓のマスターを下げておく。10-20程度。
これはミキサーの出力を低めにしておくことで、操作上の余裕を持たせられる・・特にイベント終盤の盛り上がりで突っ込める余地があることですね。
が、概してSNは悪化しがち・・終段がフルテンで、しかも本線系のレベルは下がっているわけですから・・

逆にミキサーはほとんど基準レベルにして、終段のアンプを若干絞っておく。
これは本線系のレベルが高いのでSNは良くなります。
が、突っ込まなければいけないときにフェーダーがドン突きになってしまう・・イコールミキサー卓自体に余裕がないと卓でひずむ・・と言う状況になります。

まぁ、イベントの性質、音楽の種類などから適宜この中間点のいずれかを選択しているわけですけどね・・

そう言う意味ではアンプ前段にゲインのリモート調整機能があると調整余地はグンと豊かになります。

いずれ、アンプは振り切り直前がもっとも良い音がするというのは経験的にも言われていることで、これをどう料理するか・・腕の見せ所でもありますね。
微妙に歪み始めたあたりがもっともいい音だという意見もありますし・・

転落事故

秋田は由利本荘の市民文化会館で、郷土芸能の大会の照明係の女子高校生が天井板を踏み抜いて約10メートル下の客席に転落したと言うニュースが流れました。
なんでも携帯を天井裏に落としてそれを拾おうとしてキャットウォークから踏み出したらしい。
う~ん・・まず第一には天井裏作業の危険性をきっちりと教えていたのか?
監督する管理者がいたのか?
携帯などを持ち込まないようにと指導していたのか?

うちの小屋ではうるさいくらいに危険について教えてから上がらせているけれど、あらためて防止対策を考えないとね・・

想像以上に大事なスピーカーセッティング

はてさて、プロの方でもついつい何となくでセットしてしまうだろうスピーカーシステム。
私が師匠から学んだ中でも非常に大きいものの一つがこれです。

「スピーカーを置いた時点で9割音は決まってしまうんだよ」

そして、経験を積むに従って確かだと思うようになりました。

ミキサーやEQでいくらいじろうが、そこに置かれたスピーカーとその環境はいじりようがないのです。

そもそもそこに置くのが適切かどうか?
高さは?角度は?
煽り(その逆)は?
軸線はどこに向いているか?
指向角内に反射壁はないか?
客のいないところにサービスしていないか?
フラッターを構成しやすい面に向いていないか?
マイクに対して適切に前か?スピーカー同士の位相干渉は起きないか?
指向角に対して実音がきれいにつながる距離と角度でアレイ出来ているか?
モニターとの干渉はないか?
などなど・・

これらが理想的であれば、EQを最小に押さえたオペレートが可能になります。
しっかりとしたスピーカーセッティングの指針とノウハウがあれば、トラブルのある会場でイレギュラーであっても扱いやすいセッティングを生み出すことも出来ますが、いずれ心を配らないとね・・

SX-200などでは筐体なりにぴったりと合わせると複数スピーカー間の干渉で、境目にきつめの音がする場所が出来ます。
弦楽四重奏などでチェックするとよく分かる。
そこで、後を3センチくらい、前を4センチくらい空けたセッティングにするときれいにつながる。(これはその場所なりで再確認ね)
これによって音圧を上げてもきつくなく、かつハイクオリティな再生がやりやすくなるのよね。

まぁそんなに追い込めない現場も多々あるとは思うんだけど、いずれスピーカーのカバー域を十分に意識したプランとセッティングをお忘れ無く。